「20代で転職を3回もしてしまった。次の面接で不利になるだろうか」「短期間での転職は経歴に傷がつくと聞いたけれど、本当なのか」――こうした不安を抱える20代の方は少なくありません。
確かに、かつての日本では「石の上にも三年」という言葉に象徴されるように、一つの会社で長く働くことが美徳とされてきました。しかし、働き方が多様化し、キャリアの選択肢が広がった現代において、企業が求職者を評価する視点も大きく変化しています。
本記事では、20代で転職を繰り返すことが本当に不利なのか、そして採用担当者が実際にどのような点を重視しているのかを、具体的なデータや事例を交えて解説します。
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20代の転職市場の現状
転職回数の実態
厚生労働省の調査によると、20代の転職は決して珍しいものではありません。むしろ、初めて就職した会社を3年以内に離職する割合は、大卒者で約30%に達しています。
また、リクルートキャリアの調査では、20代後半で2回以上の転職経験がある人の割合は年々増加傾向にあり、転職が「特別なこと」ではなく「キャリア形成の一つの選択肢」として認識されるようになってきています。
企業の採用意欲の変化
人材不足が深刻化する中、多くの企業は20代の若手人材の採用に積極的です。特に、ポテンシャル採用を重視する企業では、転職回数よりも「これから何ができるか」「どう成長していけるか」という点を重視する傾向が強まっています。
企業が本当に見ている5つのポイント
では、採用担当者は転職回数の多い20代の応募者に対して、具体的にどのような点を評価しているのでしょうか。
1. 転職理由の一貫性と納得感
企業が最も気にするのは、「なぜ転職を繰り返しているのか」という理由です。ただし、単に転職回数が多いことが問題なのではありません。重要なのは、それぞれの転職に明確な理由があり、その理由に一貫性があるかどうかです。
企業が評価するケース:
- 「Webマーケティングのスキルを深めるため、より専門性の高い環境を求めて転職を重ねてきた」
 - 「グローバルな環境で働きたいという目標があり、段階的にステップアップしてきた」
 - 「将来の起業を見据えて、営業、企画、マネジメントと異なる職種を経験してきた」
 
企業が懸念するケース:
- 「人間関係が合わなかった」という理由だけが繰り返される
 - 「なんとなく」「思っていたのと違った」など、具体性に欠ける説明
 - 前職や前々職への批判ばかりで、自己の成長や学びについての言及がない
 
つまり、転職回数そのものよりも、「キャリアビジョンを持って主体的に選択してきたか」という点が評価のポイントになります。
2. 各職場での具体的な成果と学び
20代で転職を繰り返していても、それぞれの職場で何を学び、どのような成果を出してきたかを明確に説明できれば、むしろポジティブな評価につながります。
採用担当者が知りたいのは、以下のような点です:
- 具体的な数字を伴う成果:「営業成績で部署内トップ3に入った」「プロジェクトを3ヶ月で完遂し、コストを20%削減した」など
 - 短期間でも身につけたスキル:「半年でExcelのVBAを習得し、業務効率化に貢献した」「顧客対応力を磨き、クレーム対応のマニュアルを作成した」など
 - 成長のプロセス:失敗から何を学んだか、どう改善してきたかといった具体的なエピソード
 
在籍期間が短くても、その期間中に主体的に学び、成果を出そうとする姿勢が見られれば、企業は「当社でも活躍してくれるだろう」と判断します。
3. 自己分析の深さと今後のキャリアビジョン
転職を繰り返す中で、「自分に何が向いているのか」「どういう環境で力を発揮できるのか」を理解できているかも重要な評価ポイントです。
企業が評価する応募者は、以下のような自己理解を示します:
- 自分の強みと弱みの認識:「私は新しいことを学ぶのが得意だが、ルーティンワークは苦手だと分かった」
 - 適性の発見:「複数の職種を経験した結果、顧客と直接関わる仕事にやりがいを感じることが分かった」
 - 今回の応募理由の明確さ:「これまでの経験を踏まえて、御社の○○という環境が自分に最適だと考えた」
 
逆に、「またすぐに辞めてしまうのでは」と懸念されるのは、自己分析が浅く、「なぜ今度はこの会社なのか」を説得力を持って説明できない場合です。
4. 誠実さとコミュニケーション能力
面接では、転職理由を正直に、かつポジティブに伝えるコミュニケーション能力が試されます。
企業が高く評価するのは:
- 責任を他者に転嫁しない姿勢:前職の問題点を指摘する場合でも、自分の選択として捉え直す
 - 失敗を認める誠実さ:「最初の転職は準備不足だった」など、反省点を率直に語る
 - 学びに変える力:失敗や困難な経験から何を学んだかを具体的に説明できる
 
特に20代の場合、完璧なキャリアを歩んでいることよりも、失敗から学び、成長しようとする姿勢の方が重要視されます。嘘をついたり、話を盛ったりすることは逆効果です。採用担当者は多くの面接を経験しているため、不誠実な態度はすぐに見抜かれてしまいます。
5. 応募企業への本気度と定着可能性
最終的に企業が最も知りたいのは、「今度は長く働いてくれるのか」という点です。これを示すためには、応募企業への本気度を具体的に伝える必要があります。
効果的なアプローチ:
- 企業研究の深さ:事業内容、企業文化、将来のビジョンについて深く理解していることを示す
 - 自分の経験との接続:過去の経験が、なぜこの会社で活かせるのかを論理的に説明する
 - 長期的な視点:「3年後、5年後にどうなりたいか」というビジョンを語り、それがこの会社で実現可能であることを示す
 - 具体的な貢献イメージ:入社後、どのように貢献できるかの具体的なアイデアを持っている
 
「今度こそ」という決意を、具体的な根拠とともに示すことができれば、過去の転職回数はむしろ「多様な経験」としてプラスに転換できます。
業界・職種による違い
転職回数に対する評価は、業界や職種によっても異なります。
転職回数が比較的許容されやすい業界・職種
- IT・Web業界:技術の変化が速く、多様な経験が評価されやすい
 - ベンチャー企業:チャレンジ精神や多様なスキルセットが重視される
 - クリエイティブ職:実績やポートフォリオが最も重視され、転職回数は二の次
 - 営業職:成果主義の傾向が強く、実績があれば転職回数は問われにくい
 
慎重に見られやすい業界・職種
- 金融業界:安定性や長期的な信頼関係が重視される
 - 製造業の技術職:専門性を深めるのに時間がかかるため、継続性が評価される
 - 公務員・教育機関:組織への定着が前提となっている
 - 大手企業の総合職:長期的なキャリア形成を前提とした採用が多い
 
ただし、これらはあくまで傾向であり、個々の企業によって考え方は異なります。応募先の企業文化や採用方針をよく理解することが重要です。
転職回数が多い場合の効果的な対策
履歴書・職務経歴書の書き方
1. 職務経歴書は「ストーリー」で構成する
単なる職歴の羅列ではなく、キャリアの一貫性を示すストーリーとして構成します。冒頭に「キャリアサマリー」として、これまでの経験を貫くテーマや目標を記載しましょう。
2. 各職務での成果を具体的に記載する
在籍期間が短くても、「その期間で何を達成したか」を数字や具体的な事例で示します。プロジェクトベースで書くことで、短期間でも充実した経験を積んだことをアピールできます。
3. 転職理由は前向きに、簡潔に
職務経歴書に転職理由を書く場合は、ネガティブな内容は避け、「○○のスキルを深めるため」「より専門性の高い環境を求めて」など、前向きな理由を簡潔に記載します。
面接での伝え方
1. 準備段階で「転職の物語」を整理する
すべての転職に一貫したストーリーを作ります。「なぜその選択をしたのか」「何を学んだのか」「次にどう活かしたのか」を時系列で説明できるようにしておきましょう。
2. 正直さと前向きさのバランス
失敗や後悔があっても隠さず、しかしそこから何を学んだかに焦点を当てます。「当時の判断は甘かったが、そのおかげで○○が分かった」というように、成長の糧にしている姿勢を示します。
3. 「今度は違う」理由を具体的に示す
過去の転職と今回の応募の違いを明確にします。「これまでは自己分析が足りなかったが、今は○○を通じて自分の適性を理解している」「御社の△△という点が、私の求める環境と完全に一致している」など、具体的な根拠を示しましょう。
スキルと実績で勝負する
転職回数をカバーする最も効果的な方法は、明確なスキルと実績を持つことです。
- 資格取得:業界で評価される資格を取得し、学習意欲と専門性をアピール
 - ポートフォリオの充実:特にクリエイティブ職やエンジニア職では、実際の成果物が何よりの証明になる
 - 副業・個人プロジェクト:本業以外でも主体的にスキルを磨いている姿勢を示す
 - 継続的な学習:オンライン講座の修了証明など、常に学び続けていることの証拠を用意
 
20代の転職で本当に不利になるケース
一方で、実際に採用で不利になるケースも存在します。それは転職回数そのものではなく、以下のような場合です。
1. 転職理由が毎回同じで改善の意思が見えない
「人間関係が原因」「残業が多かった」など、同じ理由で転職を繰り返し、その問題に対する自己の対処法や成長が見られない場合は、「どこに行っても同じ問題を繰り返すのでは」と判断されます。
2. 極端に短い在籍期間の繰り返し
3ヶ月未満の在籍を複数回繰り返している場合、「仕事への適応力」や「忍耐力」が疑問視されることがあります。ただし、やむを得ない事情(企業の倒産、家族の事情など)がある場合は、正直に説明すれば理解を得られることが多いです。
3. 説明に一貫性がなく、場当たり的な印象
面接のたびに転職理由が変わったり、矛盾した説明をしたりすると、信頼性が損なわれます。一度、自分のキャリアストーリーを整理し、一貫した説明ができるようにしておくことが重要です。
まとめ:20代の転職は「回数」より「質」が問われる
20代で転職を繰り返すこと自体が決定的に不利になるわけではありません。企業が本当に見ているのは、「なぜ転職したのか」「そこから何を学んだのか」「今後どう活かせるのか」という点です。
むしろ、複数の職場を経験したことで得られた多様な視点やスキル、そして何より「自分に何が向いているか」を理解できていることは、20代後半から30代にかけてのキャリア形成において大きな強みになります。
重要なのは、過去の選択を後悔するのではなく、それを自分の成長のストーリーとして語れるようにすることです。そして、次の職場では腰を据えて働く覚悟と、そのための具体的な理由を持つことです。
転職回数の多さに不安を感じている方は、まず自分のキャリアを振り返り、そこに一貫したテーマや学びを見出してみてください。そして、それを正直に、前向きに伝えることができれば、あなたの多様な経験は必ず評価されるはずです。
20代はまだ試行錯誤が許される年代です。過去の選択に自信を持ち、未来に向けて一歩を踏み出しましょう。
