月曜日の朝、目覚まし時計が鳴った瞬間に「会社に行きたくない」と思う。通勤電車に揺られながら「このまま会社を辞めたい」と考える。デスクに座りながら転職サイトを眺めている──そんな経験はありませんか?
「辞めたい」という気持ちは、多くの社会人が一度は抱く感情です。実際、ある調査によれば、働く人の約7割が「転職を考えたことがある」と回答しています。この気持ち自体は決して異常なものではありません。
しかし、感情に任せて衝動的に転職を決断することは危険です。私自身、過去に2回転職を経験していますが、1回目は失敗でした。「辞めたい」という感情だけで転職し、結果的に前職よりも悪い環境に身を置くことになってしまったのです。
その苦い経験から学んだのは、転職前には冷静に自分と向き合い、本当に転職すべきかを見極める必要があるということでした。2回目の転職では、しっかりと準備と確認を重ね、今では満足のいくキャリアを歩んでいます。
本記事では、「辞めたい」と思った時に、転職を決断する前に必ず確認すべき3つのことをお伝えします。この3つを確認することで、後悔のない決断ができるはずです。
確認すべきこと1:「辞めたい理由」は一時的なものか、構造的なものか
感情的な「辞めたい」と構造的な「辞めたい」の違い
「辞めたい」という気持ちには、大きく分けて2つのタイプがあります。
一時的・感情的な理由:
- 上司と喧嘩をした
- プロジェクトで失敗して落ち込んでいる
- 同僚と意見が合わず、ストレスを感じている
- 忙しい時期で疲れている
- プライベートで嫌なことがあった
構造的・継続的な理由:
- 長時間労働が常態化している
- 正当な評価がされない制度がある
- 会社の方針と自分の価値観が合わない
- 成長機会が全くない
- ハラスメントが放置されている
前者は時間が解決することも多いですが、後者は環境を変えない限り改善しません。重要なのは、今感じている「辞めたい」がどちらのタイプなのかを見極めることです。
「辞めたいノート」をつけてみる
私が実践して効果的だった方法は、「辞めたいノート」をつけることです。
「辞めたい」と思った瞬間に、その理由と状況を具体的に書き出します。日付、時間、何があったか、どう感じたかを記録するのです。これを1ヶ月続けてください。
1ヶ月後に見返すと、パターンが見えてきます。「毎週月曜日の朝会後に書いている」「特定の上司との関わりの後に必ず書いている」「月末の繁忙期だけ書いている」など、自分の「辞めたい」の傾向が分かります。
一時的なパターンの例:
- 「月末の締め期間だけ書いている」→繁忙期のストレス
- 「プレゼン失敗後の1週間だけ頻繁に書いている」→一時的な落ち込み
構造的なパターンの例:
- 「毎日コンスタントに書いている」→根本的な不満
- 「同じ理由が繰り返し出てくる」→改善されない問題
私の場合、1回目の転職前は「上司とのやりとり」が圧倒的に多く、これは構造的な問題だと判断しました。しかし転職先でも同様の問題が起きたことで、実は自分のコミュニケーション力に課題があることに気づきました。
2回目の転職を考えた時は、「成長機会がない」「評価制度への不満」が継続的に書かれており、これは明らかに会社の構造的問題だと判断できました。この見極めができたからこそ、転職は成功しました。
6ヶ月ルール:最低半年は様子を見る
もう一つ重要なのが「6ヶ月ルール」です。
「辞めたい」と思っても、最低6ヶ月は今の環境で改善を試みることをお勧めします。半年あれば、異動や配置転換があるかもしれません。プロジェクトが変わるかもしれません。上司との関係が改善するかもしれません。
ただし例外もあります。心身の健康を害している場合、ハラスメントがある場合、違法行為を強要される場合などは、即座に環境を変えるべきです。無理をして体調を崩しては元も子もありません。
私の友人は、「辞めたい」と思ってから実際に退職するまで1年かけました。その間に部署異動があり、新しい上司の下で働くことになったことで、状況が大きく改善したのです。もし衝動的に辞めていたら、この機会を失っていたでしょう。
逆に、私の2回目の転職では、1年以上「辞めたい」と思い続け、様々な改善を試みましたが状況は変わりませんでした。この経験があったからこそ、転職の決断に迷いはありませんでした。
チェックリスト:あなたの「辞めたい」はどちらのタイプ?
以下の質問に答えてみてください。
□ 「辞めたい」と思うようになってから3ヶ月以上経っている
□ 特定の出来事ではなく、日常的に辞めたいと感じる
□ 同じ理由で何度も辞めたいと思っている
□ 休日が終わると憂鬱になる
□ 会社のことを考えると体調が悪くなる
□ 今の会社での将来像が描けない
□ 改善の余地がないと感じている
5つ以上該当する場合は、構造的な問題の可能性が高いです。真剣に転職を検討する価値があるでしょう。
確認すべきこと2:今の環境で改善できることはないか
転職は「最後の手段」であるべき
転職には大きなエネルギーとリスクが伴います。新しい環境への適応、人間関係の構築、仕事の覚え直し──これらはかなりのストレスです。もし今の環境で改善できるなら、それが最も効率的な解決策です。
私の1回目の転職は、この点を怠ったために失敗しました。上司との関係に悩んでいましたが、人事部に相談することも、異動の希望を出すこともせずに辞めてしまいました。後から考えれば、社内で解決できた可能性もあったのです。
試すべき5つの改善アクション
転職を決める前に、以下の5つを試してみてください。
1. 直属の上司に相談する
意外かもしれませんが、まずは直属の上司に素直に相談してみることです。ただし、いきなり「辞めたい」と言うのではなく、「今の業務について相談があります」という形で話を持ちかけます。
「もっと成長できる仕事がしたい」「業務量が多くて困っている」など、具体的な改善提案とセットで伝えることがポイントです。上司も部下が辞めることは避けたいので、可能な範囲で配慮してくれる可能性があります。
私の同僚は、この方法で業務内容の見直しと、興味のあった新規プロジェクトへの参加が認められました。「言ってみるものだ」と驚いていましたが、言わなければ何も変わりません。
2. 人事部・相談窓口を活用する
上司に相談できない場合や、上司が問題の原因である場合は、人事部や社内の相談窓口を活用しましょう。
多くの企業には、キャリア相談窓口やハラスメント相談窓口があります。これらは活用されていないことも多いですが、実は有効な解決手段です。
私の知人は、パワハラ上司に悩んでいましたが、相談窓口に話したことで、部署異動が実現しました。「こんな簡単に解決するなら、もっと早く相談すればよかった」と話していました。
3. 異動・配置転換の希望を出す
会社によっては、定期的に異動希望を聞く制度があります。積極的に活用しましょう。
部署が変われば、上司も同僚も仕事内容も変わります。実質的に「社内転職」のようなものです。転職のリスクを負うことなく、新しい環境を得られる可能性があります。
私は2回目の転職前に、実は異動希望を出していました。しかし半年待っても異動が叶わず、改善の見込みがないと判断して転職を決意しました。試してみて初めて、「この会社では変われない」と確信できたのです。
4. 働き方の調整を提案する
長時間労働や通勤時間が問題なら、リモートワークやフレックスタイム制の導入を提案してみましょう。
コロナ禍以降、働き方の柔軟化に対応する企業が増えています。「週2日リモートワークにできませんか」と相談するだけで、状況が改善するかもしれません。
私の友人は、育児との両立が難しく退職を考えていましたが、時短勤務とリモートワークの併用を認めてもらい、仕事を続けることができました。
5. スキルアップ・資格取得の支援を求める
「成長できない」が理由なら、社内の研修制度や資格取得支援制度を確認しましょう。
多くの企業が福利厚生として研修費用を補助していますが、利用率は低いです。「こんな研修を受けたい」「この資格を取りたい」と具体的に提案すれば、費用を出してくれる可能性があります。
私は前職で、業務に関連する資格取得の費用を全額会社負担してもらいました。この時「使える制度は使わないと損だ」と学びました。
改善を試みた記録を残す
重要なのは、これらの改善アクションを試み、その結果を記録することです。
「○月○日、上司に業務量について相談→改善なし」「○月○日、異動希望を提出→3ヶ月待ったが回答なし」など、具体的に記録しておきましょう。
この記録は2つの意味があります。一つは、自分自身が「やるべきことはやった」と納得するため。もう一つは、転職の面接で「なぜ転職するのか」を説明する際の根拠になるからです。
「不満があって辞めた」と「改善を試みたが変わらなかったので、新しい環境を求めて転職した」では、面接官への印象が全く違います。
確認すべきこと3:転職先に求める条件は明確か
「逃げの転職」は失敗する
私の1回目の転職が失敗した最大の原因は、「今の会社から逃げたい」だけで転職したことでした。
「何が嫌か」は明確でしたが、「何を求めているか」が曖昧だったのです。その結果、転職先でも同じような不満を抱えることになりました。
転職は「逃げ」ではなく「選択」であるべきです。何から逃げるかではなく、何を得るために転職するのか。この違いが、転職の成否を分けます。
Must条件とWant条件を明確にする
転職先に求める条件を、以下の3つに分類してみましょう。
Must条件(絶対に譲れない):
- これがないと転職する意味がない
- 最低3つ、最大5つに絞る
- 具体的で測定可能なものにする
Want条件(あったら嬉しい):
- あるに越したことはない
- 優先順位をつける
- 全て満たされることは期待しない
Nice to Have条件(あれば最高):
- ボーナス的な要素
- 決定的な要因にはしない
私の2回目の転職での条件設定はこうでした。
Must条件:
- 年収が現職より20%以上アップする
- 成果主義の評価制度がある
- リモートワーク可能
- 残業月20時間以内
Want条件:
- 新規事業に関われる
- 英語を使う機会がある
- 社員の平均年齢が30代
- オフィスが通勤1時間以内
Nice to Have条件:
- フリードリンク
- 服装自由
- 副業OK
このように明確にすることで、企業選びで迷いがなくなります。Must条件を全て満たす企業だけに絞ることで、転職後のギャップを最小限にできました。
優先順位をつける:何が一番大切か
条件を洗い出したら、次は優先順位をつけます。全ての条件を満たす「完璧な会社」は存在しないからです。
私の場合、最優先は「成長機会」でした。給与も大切でしたが、それ以上に「スキルアップできる環境」を求めていました。
優先順位を決める際に役立つのが「5年後の自分」を想像することです。5年後、どんなスキルを持ち、どんな仕事をしていたいか。その姿に最も近づける選択肢はどれか。
この視点で考えると、目先の待遇だけでなく、中長期的なキャリアパスが見えてきます。
条件の「測定可能性」を確認する
条件は具体的で測定可能なものにすることが重要です。
❌ 「働きやすい会社」 ⭕ 「残業月20時間以内、リモートワーク週2日以上」
❌ 「成長できる環境」 ⭕ 「新規事業に携われる、研修制度が充実、上司が1on1を週1で実施」
❌ 「給与が良い」 ⭕ 「年収500万円以上、賞与年2回で業績連動」
曖昧な条件は、面接で確認することも、入社後に満たされているか判断することもできません。具体的にすることで、企業選びの精度が上がります。
「市場価値」を知る:条件は現実的か
もう一つ重要なのは、自分の条件が市場において現実的かどうかを確認することです。
「年収1000万円、残業ゼロ、完全リモート」──これが叶えば理想的ですが、あなたのスキルと経験で実現可能でしょうか?
転職エージェントに登録し、市場価値を確認してもらいましょう。「あなたの経験なら、このレンジの年収が妥当です」と客観的なアドバイスがもらえます。
私も転職活動前にエージェントと面談し、「年収20%アップは現実的だが、30%は難しい」という市場感覚を掴みました。この情報があったからこそ、現実的な条件設定ができました。
転職条件チェックリスト
以下の質問に答えて、転職条件が明確か確認しましょう。
□ Must条件を3〜5つ挙げられる
□ 各条件が具体的で測定可能である
□ 条件に優先順位がついている
□ 自分の市場価値を把握している
□ 「何から逃げるか」より「何を得るか」が明確
□ 5年後のキャリアビジョンと条件が一致している
□ 条件を満たす企業が実在することを確認している
全てチェックできたら、転職活動を始める準備ができています。
転職を決断する前に:最後の確認ポイント
ここまで3つの確認事項を見てきました。最後に、転職を決断する前の「最終チェックリスト」をお伝えします。
心身の健康状態を確認する
転職活動はエネルギーを要します。心身ともに健康でなければ、良い判断はできません。
もし今、強いストレスで体調を崩している場合は、まず休養を優先してください。必要であれば休職も検討しましょう。健康を犠牲にしてまで続けるべき仕事はありません。
一方、ある程度余裕がある状態で転職活動をした方が、冷静な判断ができます。「今すぐ辞めたい」という切迫した状況では、条件面で妥協してしまうリスクがあります。
経済的な準備はできているか
転職活動には費用がかかります。また、転職後の給与支払いまでのタイムラグもあります。
最低でも生活費の3〜6ヶ月分の貯金があることを確認しましょう。この経済的余裕が、転職活動中の心の余裕につながります。
私は転職活動前に6ヶ月分の生活費を確保してから動き出しました。この準備があったからこそ、「早く決めなければ」と焦ることなく、納得いく企業を選べました。
家族・パートナーと話し合ったか
転職は自分だけの問題ではありません。特に家族がいる場合、収入の変化や勤務地の変更は、家族全体に影響します。
配偶者や家族には、転職を考え始めた段階で相談しましょう。「実は転職しようと思っている」といきなり言うのではなく、「最近こんな悩みがあって」と日頃から話しておくことが大切です。
私は転職活動を始める前に、妻と何度も話し合いました。「なぜ転職したいのか」「どんな会社を探すのか」「年収が下がる可能性もあるがどうか」──包み隠さず話すことで、妻の理解と協力を得られました。
「本当に転職すべきか」最終判断の3つの質問
最後に、以下の3つの質問に答えてください。
1. 今の会社で改善を試みたか? → NOなら、まだ転職すべきではありません。
2. 転職先に求める条件は明確か? → NOなら、条件を明確にしてから動き出しましょう。
3. この転職で、5年後の自分は今より幸せか? → NOなら、本当に転職すべきか再考が必要です。
全てYESなら、転職活動を始める準備ができています。
まとめ:後悔しない決断をするために
「辞めたい」という気持ちは、自分のキャリアを見つめ直す貴重な機会です。しかし、その気持ちだけで衝動的に転職を決めてはいけません。
本記事でお伝えした3つのこと──
- 「辞めたい理由」は一時的か構造的か確認する
- 辞めたいノートをつける
- 6ヶ月ルールを守る
- 感情的な決断を避ける
- 今の環境で改善できることはないか試す
- 上司・人事に相談する
- 異動希望を出す
- 働き方の調整を提案する
- 改善の記録を残す
- 転職先に求める条件を明確にする
- Must/Want/Nice to Have条件を分ける
- 優先順位をつける
- 市場価値を把握する
- 測定可能な条件にする
これらを確認することで、転職すべきか、今の会社で頑張るべきか、冷静に判断できるはずです。
私の経験から言えるのは、「準備と確認を怠らなければ、転職は人生を変える素晴らしい選択になる」ということです。逆に、感情だけで動けば、失敗のリスクが高まります。
今「辞めたい」と思っているあなたへ。焦らず、一つずつ確認してください。本当に転職すべきなら、その確信が深まるはずです。今の環境で改善できるなら、無用なリスクを避けられます。
どちらの結論になっても、しっかりと確認した上での決断なら、後悔はありません。あなたのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。
次のステップ: 転職を決意したら、まずは転職エージェントに登録して市場を知ることから始めましょう。逆に、もう少し今の環境で頑張ると決めたなら、上司や人事との面談をセットすることから始めてください。
どちらにしても、「行動を起こすこと」が重要です。悩んでいるだけでは何も変わりません。小さな一歩から始めましょう。

